かぶせ茶(半日陰で栽培されるお茶)
「かぶせ茶」は、その名の通り、茶葉を収穫前に「寒冷紗(かんれいしゃ)」と呼ばれる布で覆って栽培するお茶です。この栽培方法は「被覆栽培」と呼ばれ、 玉露や碾茶(てんちゃ、 抹茶の原料となるお茶)などにも用いられています。この覆いによって一定期間、新茶の葉に届く日光を遮断することで、茶葉の変色を促します。 以前、 日陰栽培技術についてかなり詳細な記事を書いたので、ここではあまり深く掘り下げません。ただし、茶葉が日陰になると何が起こるのか(生物学の授業で学んだ光合成を思い出してください)を簡単にまとめると、以下のようになります。 茶葉には、根で生成されるアミノ酸の一種であるテアニンが含まれています。テアニンは日本茶に含まれるアミノ酸の約50%を占め、うま味成分です。そのため、テアニンを含むアミノ酸の含有量が多いほど、お茶の風味と甘みが強くなります。 茶葉は日光に当たるとテアニンはカテキンに変化することが知られています。カテキンは日本茶の苦味や渋みの成分であるため、茶葉が日光に当たることでテアニンがカテキンに変化すると、うま味や甘みよりも、苦味や渋みが特徴的なお茶になります。 玉露やかぶせ茶のような遮光されたお茶は、うま味成分がより多く含まれるのはこのためです。日光を遮ることで、茶葉に含まれるテアニンがカテキンに変換されにくくなります。つまり、テアニンが多く、カテキンが少ないお茶は、うま味と甘味が強く、渋みと苦味が抑えられるのです。 かぶせ茶の一般的な覆い期間は、地域や茶園によって異なりますが、おおよそ1週間から10日間です。後ほど詳しく説明しますが、覆い期間が長いほど玉露に近い品質になり、覆い期間が短いほど煎茶に近い品質になります。 さらに、日陰栽培は茶葉の味だけでなく、色にも良い影響を与えます。植物は光合成によってエネルギーを生成しますが、その過程で光エネルギーを吸収するクロロフィルが重要な役割を果たします。茶葉が緑色なのは、クロロフィルが含まれているからです。 覆屋栽培では日光が遮られるため、茶葉は貴重な太陽光をできるだけ多く吸収しようとクロロフィル(葉緑素)の生成を活発化させます。そのため、かぶせ茶の葉は鮮やかな緑色で、わずかに青みがかっています。 先ほど、かぶせ茶に加えて、玉露と碾茶も覆土栽培で栽培されていると述べさせていただきました。では、これら3つのお茶の違いは何なのか、と疑問に思われるかもしれません。状況によっては覆土方法が異なりますが、遮光技術、地域、茶園によって大きく異なるため、一概に判断することは困難です。より一般的な違いは、覆土期間の長さです。 まとめると、かぶせ茶は通常7日から10日間覆うのに対し、玉露は約20日間、碾茶はさらに5日間覆うことが多いです。ただし、覆う期間の長さの順位は、かぶせ茶 < 玉露 < 碾茶 となります。 お茶が日光から遮られる時間が長くなるほど、テアニンからカテキンへの変換量が少なくなるため、玉露や碾茶はかぶせ茶に比べて、うま味と甘味が強いお茶になることが多いです。しかし、だからといってかぶせ茶が劣っている、あるいは美味しくないということではありません。 かぶせ茶には、比較的蓋の期間が短く煎茶に近い味わいのものから、蓋の期間が長く玉露に近い品質のものまで、様々な種類があります。玉露と煎茶の中間のような、両方の良いとこ取りをしたお茶と言えるでしょう。 かぶせ茶で有名な三重県伊勢市 農林水産省の発表によると、 2022年度のかぶせ茶の生産量は日本茶生産量の約2.8%を占めています。一般的には生産量が少ない、淡い色合いの茶です。地理的には関東から九州地方で多く生産されていますが、三重県がかぶせ茶生産量の6割以上を占めています。実際、お茶の主要加工品である荒茶(荒茶)の生産量は、2023年度に静岡県と鹿児島県に次いで全国3位でした。 静岡県や鹿児島県はお茶の産地として有名ですが、三重県が荒茶の生産量で世界第3位であることに驚かれるかもしれません。しかし、三重県のお茶の歴史は非常に古く、最古の記録は西暦900年初頭、四日市市水沢町一乗寺にまで遡ります。 伊勢茶の歴史は深く、鎌倉時代に全国に茶の栽培を広めた明恵上人が伊勢川上に茶の種を植えたことに始まります。その後、江戸時代末期には水沢町の成願寺の住職であった中川則広が宇治から茶の種を持ち帰り、茶の栽培を広め、この地域の茶業の発展へと繋がりました。 現在、四日市市や鈴鹿市を中心とする北西部と、松阪市を中心とする南西部では、茶の生産が盛んであり、「伊勢茶」のブランドで知られています。特に北西部はかぶせ茶の産地として盛んに行われており、四日市市水沢で生産される茶は、かぶせ茶を代表する品種の一つです。そのため、かぶせ茶の主要産地は西の三重県であるため、淡色茶は関西地方を含む西日本に分布し、関東地方などの東日本では稀少です。 これは、Yunomiのかぶせ茶(濃淡緑茶)のコレクションにも反映されています。かぶせ茶に関するこの記事の締めくくりとして、このお茶を専門に栽培している(つまり、茶業のほとんどをかぶせ茶の生産に集中させている)茶農家をいくつかご紹介します。 富沢茶園 - 熊本県...