導入
備前屋茶舗は、宇治や静岡と並んで日本屈指の茶産地である埼玉県日高市高萩にあります。備前屋は、この地域特有のお茶である狭山茶の生産・販売を専門としています。しかし、ここはありふれた茶屋ではありません。備前屋の5代目茶商、清水敬一郎氏は、信頼できる地元の農家から高品質な茶葉を仕入れ、小規模な茶葉の集積地として稀有なニッチな市場を築き上げました。茶の世界の活気に突き動かされ、清水氏はお茶の奥深さに魅了されています。清水氏は、先祖から受け継いだ伝統的な技法と、海外で得た現代的な革新性、そして洞察力を融合させ、日本茶の限界を広げています。例えば、清水氏が手掛けた受賞歴のあるお茶の一つ、「 琥珀プラチナ」は、蒸し茶が主流になる以前の素朴なスタイルのお茶を、洗練され革新的に解釈した逸品です。狭山青烏龍茶と呼ばれるようになった、独創的なお茶の代表例と言えるでしょう。繊細な花の香りは、丁寧な萎凋(いちょうしゅう)工程によって引き出されます。彼の所有する茶園から手摘みすることで、最終製品に使われる茶葉の成分と、独特の香りと風味を最大限にコントロールすることができます。
100%地元産
備前屋は、狭山地方(入間市、狭山市、所沢市、日高市、飯能市など)の約12の地元工場と、有機栽培、エコ農法、手摘みの認証を取得した実績のある農家から茶葉を仕入れています。日本の多くの茶店は複数の産地から茶葉を仕入れており、狭山の茶農家の大半は自社で茶葉を直販しているため、このようなスタイルの茶店は日本では稀有な存在です。しかし、清水さんは狭山産の茶葉のみを仕入れると誓っています。
備前屋自家茶園「乃木園」
備前屋茶園は明治元年(1868年)に創業しました。昭和初期(1930年代)までは、清水さんの一家は精米業などの農業にも力を入れていました。清水さんのお父様は、一族の茶業、特に手摘み茶に注力した人物です。日本の多くの茶園では、茶樹の配置や剪定に幾何学的で均整のとれた美しさが見られます。これは、長年にわたる茶の品種改良と近年の機械化によって可能になった、直線的な茶樹の丁寧な剪定によるものです。一方、清水さんの茶園は「野木園」と呼ばれ、手摘み茶園を意味します。さらに特徴的なのは、日本の多くの茶園では年に平均6回茶の摘み取りが行われるのに対し、野木園では春の一番摘みの時期に1回だけ手摘みが行われることです。備前屋の茶園の茶樹は、深い根と野生の葉を持ち、手摘み茶ならではの繊細な味わいを生み出しています。清水さんと備前屋のスタッフは、狭山茶の安定供給と品質向上に尽力してきました。こうした地域への貢献が認められ、備前屋は1995年に第24回日本農業賞を受賞しました。
備前屋のお茶の独特の風味
狭山茶の味に特別な誇りを持っているのは清水さんだけではありません。有名な茶摘み歌にも「お茶の色は静岡、香りは宇治、しかし味は狭山茶」と歌われています。実際、狭山の茶農家はお茶の味に非常にこだわりを持っており、その独特の味の一部はお茶の加工方法によって生まれます。清水さんは、「同じお茶を扱う問屋が10軒あれば、火入れも10通りあり、10通りの香りと味が生まれる」と語ります。清水さんは4世代にわたる知識に基づき、独自の研究と革新を通して独自の火入れスタイルを確立しました。それは、自らが厳選し育てた茶葉のテロワールと個性を最大限に表現しています。